(英エコノミスト誌 2025年9月20日号)

フォードやVW、その他の西側メーカーを気の毒に思うといい。
大規模な自動車ショーが開かれていた9月14日まで、ドイツ・ミュンヘンの歴史的に重要な中心部は地元の大手メーカーのものになった。
BMWは新古典主義様式のオペラハウスの前にキラキラ輝く台座を設け、その上に電動スポーツ多目的車(SUV)の新型「iX3」を展示した。
メルセデス・ベンツはルネサンス様式の宮殿「レジデンツ」に自動車のグリルを模した巨大なデザインスタジオを建て、電動SUVの新型「GLC」を披露した。
だが、郊外に設けられたメイン展示場では、歴史は忘れられていた。
中国の若い自動車メーカーが質と量の両面で古参の地元メーカーを圧倒していたのだ。
比亜迪(BYD)、小鵬汽車(シャオペン)、東風汽車(ドンフォン)は最先端技術を搭載しながら西側メーカーの製品を下回る価格がついた電気自動車(EV)を披露したり、輸出攻勢の主要目標が欧州であることが明確になる事業拡張方針を発表したりしていた。
しかし、中国の自動車メーカーは欧州での元気の良さとは裏腹に、国内ではトラブルに見舞われている。
慢性的な生産能力過剰による値引き合戦がもう2年以上続いているからだ。
余剰生産能力が招いた残酷な価格戦争
ことの発端は、中国政府が最初の自動車産業育成方針で成功を収めた後、同産業の世界市場進出を後押ししたことにある。
政府は15年前の時点で、中国企業は外国の有力なガソリンエンジン車メーカーとは競争できないが、EV業界は十分な補助金や各種支援を施せば成長著しい国内市場で繁栄できるかもしれないことに気づいた。
そしてそのアイデアを実行に移したところ、投資が急増し、新しい企業が何十社も産声を上げ、今年の販売台数の60%がEVで占められる見通しの自動車市場が誕生した。
中国国内には約130社の自動車メーカーがひしめいているが、大量に生産しているところはほとんどない。
もし全社が工場を1年間フル稼働させたら、買い手の数の2倍に当たる台数を生産できる。
この余剰生産能力がもたらした結果が、残酷な価格戦争だった。
日本のノムラの試算によれば、自動車の平均価格は過去2年間で約19%下落し、16万5000元(約340万円)になっている。一回限りで約35%値引きされたモデルもある。
販売台数自体はまだ増えており、今年は7%増の約2400万台と予想されているものの、各社の利益は減っており、赤字が拡大したところもある(図1参照)。
