「Agent Payments Protocol(AP2)」の登場によって、ユーザーに指示されたAI(人工知能)エージェントが商品の購買や決済を自律的に完了するシナリオが、間もなく実現しそうだ。筆者はAIエージェントによる購買活動は、米国で先行する可能性が高いと見ている。その理由を説明しよう。
AP2は米Google(グーグル)が2025年9月16日(米国時間)に発表した、AIエージェントによる安全な決済を実現するためのプロトコル(手順)だ。AIエージェントが外部システムと連係するためのプロトコルであるModel Context Protocol(MCP)や、AIエージェント同士が連係するためのAgent2Agent(A2A)プロトコルの拡張版で、AP2に対応したAIエージェントとeコマースサイトの間で、安全な商取引を行えるようにする。
AP2が普及すれば、ユーザーはスマートフォンやパソコン上で稼働するAIエージェントに「今は売り切れになっている『A』という商品の在庫状況を常時監視し、販売が再開したらすぐに購入してください」などと依頼するだけで、様々な商品を購入できるようになる。
ユーザーにとって便利そうな仕組みである一方、心配性である我ら日本人は「AIエージェントが誤って商品を購入した場合、その責任はどうするんだ」などと不安になり、利用をためらってしまいそうである。
しかし、AP2を提案したグーグルの本拠地である米国においては、AIエージェントが間違って商品を購入することに対する消費者の抵抗は少ないのではないかと筆者は見ている。米国と日本においては、消費に関わる「文化」に大きな違いがあるためだ。
「無条件での返品可能」が浸透している米国の消費市場
ご存じの方も多いだろうが、米国では購入した商品の無条件での返品が消費者の権利だと認識されており、広く定着している。流通業の多くが「返品自由」を掲げ、「Walmart」や「Target」といった大手小売店の店頭には、返品専用のカウンターが設けられているほどだ。
eコマースでも返品は重視されている。例えば米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)はオンラインの「Amazon.com」で購入した商品を、同社の食料品店である「Whole Foods Market」や「Amazon Fresh」の他、提携する衣料品店チェーン「Kohl’s」や文房具店チェーン「Staples」といった実店舗のカウンターでも返品できるようにしている。またアマゾンが設置する「Amazon Locker」も米国では、商品の受け取りだけでなく返品にも使われている。
米国の消費者市場における返品率や返品額は恐ろしいほどの水準だ。小売業界団体である米National Retail Federation(NRF)による2024年12月5日(米国時間)の発表によれば、2024年における小売返品率(売上高ベース)は16.9%であり、金額にして8900億ドル(約132兆円)もの商品が返品されているとする。
AIエージェントが購入し、AIエージェントが返品
つまり米国であれば、AIエージェントが商品を誤って購入したとしても、消費者は「返品すればいいだけ」と思う可能性が高いのだ。