軽自動車は日本の独自規格であり、日本メーカーがほぼ独占してきた。ところが、BYDが軽市場への参入を本気で臨んでおり、日本の軽自動車市場を奪いにきている。自動車アナリストの中西孝樹さんの著書『トヨタ対中国EV』(日経BP)より一部を紹介する――。(第5回)
比亜迪(BYD)の王伝福董事長
比亜迪(BYD)の王伝福董事長(会長)(写真=Imaginechina/時事通信フォト)

中国BYDが参入で軽自動車市場はどうなるのか

BYDは日本の軽自動車市場に本格参入を図る。BYD自らが日本の軽自動車規格に合わせて開発を進める「軽EV」は、2026年後半に日本向けに投入される予定である。BYDオートジャパン社長の東福寺厚樹は「国民車としての軽自動車に大きなポテンシャルがあると感じ開発に踏み切った」と参入の目的を語った。

世界で快進撃を続けるBYDであるが、実は、BYDトップの王伝福ワン・チュアンフーは日本の販売成果は非常に不満であると聞く。ディーラーを1カ所1カ所丁寧に開設しながら、ゼロからスタートしているわけであるから、筆者の目には妥当な進捗に見えるが、起死回生の策が「軽EV」ということである。

2023年10月、ジャパンモビリティショーに出席するため来日した王伝福BYD会長が、街中を走る軽自動車を目にして日本市場参入を決断した――。これがこれまで流布してきた通説である。だが、東福寺社長はあるメディアのインタビューで、この説を修正している。実際には、王会長がインスピレーションを得たのはブラジル出張の途上、成田空港でのわずか8時間のトランジット中だったという。

日本向けに開発された軽EV「ラッコ」
日本向けに開発された軽EV「ラッコ」(画像=BYD Japan Group)

まさに黒船襲来といえるワケ

千葉県内を移動する中で国内軽自動車の独自性を目の当たりにし、その特異な存在こそが彼の着想を刺激したと東福寺は語っている。

2024年10月、王会長は再びジャパンモビリティショーのため来日した。その際、「やはり日本市場には軽自動車が不可欠ではないか」という議論が社内で交わされたという。そして、この構想は水面下で急速に具体化し、わずか3カ月後の2024年末には正式なプロジェクトとして承認されるに至った。(※1)

バッテリー容量20キロワットアワー、航続距離約180キロメートル、価格は約250万円で日産サクラ(約260万円)を下回る水準を狙う――こうした報道は各メディアの憶測として散見される。しかし、BYDがこれまで築いてきた破天荒な実績を踏まえれば、その程度のスペックに収まるとは考えにくい。

筆者の見立てでは、より高い性能や付加価値を伴って登場する可能性が高い。国内メーカーが独占してきた難攻不落の軽自動車市場にとって、それはまさに黒船襲来となるだろう。