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 米国の独立記念日である2025年7月4日、大型の減税・歳出法「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」が成立した。この法律には、バイデン前政権下で施行されたインフレ抑制法(IRA:Inflation Reduction Act)に気候変動対策として盛り込まれていた税額控除の廃止および適用範囲を縮小する内容が含まれているため、エネルギー業界に大きな影響を及ぼすことは避けられない。
 本記事では、IRAによって導入された電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、蓄電池に対する税制優遇策が、OBBBAの成立によってどのように変化したのかを解説し、それが米国内外のEVおよび蓄電池市場に与える影響を考察する。

 OBBBAは、第1次トランプ政権時に成立した税制改正法(TCJA:Tax Cuts and Jobs Act)で実施された個人所得税の減税などの措置を恒久化し、さらに新しい減税措置を加えた内容だ。第2次トランプ政権は減税を実現して国民負担を下げる一方、関税の強化および政府支出の削減によって財政状況の改善を図る狙いがある。

 他方、第2次トランプ政権の主要な政策目標の1つは、「アメリカのエネルギーを解き放つ」こと、すなわち安価で安定したエネルギー供給と「エネルギー支配(Energy Dominance)」を実現することだった(詳しくは「トランプ政権のキーパーソン2人が語る、エネルギー政策の『全方位戦略』とは何か」参照)。その実現に向けて、「バイデン政権時代の極端な気候政策を終わらせる」という方向性を掲げている。

関連情報: 「トランプ政権のキーパーソン2人が語る、エネルギー政策の『全方位戦略』とは何か」

 トランプ大統領は就任初日にパリ協定からの離脱を指示する大統領令に署名し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)関連業務への米連邦政府の関与を停止した。また、2025年6月には、2035年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止する州の規制を無効化する法案に署名した。さらに、7月に成立したOBBBAに、IRAの下で定めたEVや再エネの政策方針を大きく転換する内容を盛り込んだ。

 本稿では、こうした政策転換以降の蓄電池市場の動向だけでなく、蓄電池に関連する再エネ政策の動向についても併せて解説する。本連載は蓄電池を中心テーマとして取り上げているが、特に太陽光発電をはじめとする再エネの大量導入が定置用蓄電池市場の拡大を大きく後押ししているからである。